(独)国立健康・栄養研究所 「健康食品」の安全性・有効性情報

世界保健機関

長寿免疫とナノ型乳酸菌

長寿はどうやってもたらせるのか
私たちの身体には、正確な数字は別として、約60兆個という多くの細胞があります。私たち人間は、病気をしなければ120歳まで生きられるともいわれていますが、細胞の一つ一つが120年生きるわけではなく、それぞれの役割をもった細胞がそれぞれの寿命を持って身体の中で営んでいます。
例えば、顆粒球といって、怪我をすると膿となり、ばい菌を食べてくれる細胞は、骨髄でできてから、ただの2日の命しかありません。また、ウイルス等の感染によって身体の障害を受けた細胞の掃除をしてくれるリンパ球といえども、7日から10日の寿命です。そして、体の隅々の組織に酸素を提供する役割の赤血球は100日から200日程度の寿命です。そのほか、肝臓、腎臓、筋肉、骨といわれるものも、10日から240日、8か月くらいの寿命しかありません。

※顆粒球、リンパ球
白血球には、顆粒球、リンパ球、単球がある。
顆粒球 : 白血球の60%を占める。ばい菌などを食べる。
リンパ球 : 白血球の25%を占める。抗体によって異物に対して攻撃するほか、ウイルスなどにも対応する。NK細胞、B細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)などの種類がある。
単球 : 白血球のうち3~8%を占める。最も大きな白血球で、貪食能が高く、血管外の組織などを遊走している。単球が組織などに出ることで、マクロファージになると考えられている。

この寿命のある細胞は、実は1日5,000億個、古い細胞から新しい細胞に新陳代謝しています。そして、新しくなることによって、体の壊れた部分の修復、あるいは、環境適応しています。
これをホメオスタシスといいますが、身体の中を体液成分、血液成分を一定にする環境を作ることによって命は維持されるのです。そして、この正常な5,000億個の新陳代謝がブロックされると、それが老化の促進、機能障害となって病気になるわけです。
 病気になること、怪我をすることを前提として、自己修復する能力をもって生き続けることが、あらかじめDNAの中にプログラムされており、これが生命を維持する仕組みとなっているのです。

※ホメオスタシス
寒暑や紫外線などの環境刺激、病気や怪我、出血などの身体的な刺激、飢餓や恐怖などの幅広い攻撃を受けても、それにひるまず身体が生命活動を持続できるように、体温をはじめ、血液成分、体液成分、組織成分を一定に保とうと調整すること。

例えば、どのように、私たちが正常な新陳代謝を維持しているかというと、ご存じのようにホメオスタシスを維持するためには、それぞれの細胞が分化して、神経や内分泌系、免疫担当細胞、あるいは、骨髄造血、ポンプとなる心臓血管、口から入ったものを消化して吸収して一時蓄える肝臓、それによって身体の中でできたものをいったん解毒して排出する腎臓といった、それぞれの臓器や器官のネットワークによって作られているわけです。その中で、最近注目されているのがこの腸内環境です。
この腸内環境とは、たとえて言えば、農作物のに相当する部分です。作物の根に有用な微生物が寄生していると、収穫量が上がるのと同じように、私たちの健康もこの腸内環境に有用な微生物が多いと良好に保たれます。逆に、便秘等によってこの腸内環境が悪化すると、悪玉の微生物が増え、それらが出すいろいろな有害毒素が血管を循環し、肩こりや吹き出物などさまざまな新陳代謝妨害を引き起こします。

実際私たちの身体の中には、1日3,000から5,000個といわれるがん細胞の芽が生まれていますが、こういう芽も先ほど申しました免疫系の力によって排除されるがゆえに、私たちは健康な状態で生きていけるのです。
そこで、加齢とともにどのようなに私たちの身体の機能が衰えていくのかを、年齢による臓器の重量の変化をもとに見てみたいと思います。年齢が高齢になるに従い、臓器の重量が一番いい状態を100とあいて、そこからどのように減少していくのかを見ました(図1)。すると、心臓、肝臓、脳、腎臓、脾臓いずれも減少していきます。心臓は一番萎縮が少ない臓器で、一番顕著に影響を受けるのは胸腺です。ピーク時に比べ、20%未満になってしまいます。


胸腺とは私たちの心臓の上部にあって、骨髄でできたT細胞を私たちの身体の自己、非自己を認識するために、教育するための器官になります。エイズにかかると自己、非自己の認識ができなくなり、ウイルスに対する指令を出せなくなるということで、一番注目されているT細胞を教育するのが、この胸腺なのです。
胸腺は、新生児のときに、一番髄質が充実しているのですが、これが加齢とともに脂肪質に変わり、年齢とともに萎縮してしまします。その結果、免疫力を見てみると、20歳ぐらいのときに一番免疫力が高く、加齢とともに免疫力が下がります(図2)。

免疫力が下がるのに、逆比例して老人期に入ると感染症に対する羅漢率が上がり、実に、がんで亡くなる人より、感染によって亡くなる人の方が多くなります。そこで重要なのは、この免疫の低下が加速すると、寿命が短くなるということです。誰でも加齢とともに免疫力は低下しますが、これを穏やかにすることが長寿へとつながるのです。
これを分かりやすく言うと、「ピンピンコロリ曲線」といい、他人の世話にならずに、コロッと死ぬという人として一番理想的な生き方になるわけです。


腸管免疫のメカニズムはどうなっているのか

腸管免疫はどのようなメカニズムかというと、腸管にはパイエル板があり、このパイエル板を介していろいろなものがM細胞に吸収(貪食)されます。腸内細菌には、善玉の乳酸菌のほか、悪玉の病原性が高い菌もいます。外来の菌はM細胞を通過して、マクロファージが捕食します。

それでは、どのように免疫応答するのでしょうか。
免疫応答には、リンパ球が抗体を作って、それをミサイルのように打ち込むことで病原性を不活化(中和)する液性免疫と、マクロファージやリンパ球キラー細胞に代表されるように、がん細胞など身体の中にできたものを自らから出向いて殺菌する細胞性免疫の、大まかな2つの方法があります。
抗原性のあるものをマクロファージが食べて、抗原提示をすると、Th2誘導が起こり、液性免疫の方にいきます。一方、マクロファージが食べて、IL-1を産生するとTh1が誘導されて、細胞制免疫の方にいきます。

※免疫応答
リンパ球などの免疫細胞が、ウイルスなどの外来性、または、内因性の抗原を認識して特異的に応答すること。
※抗原提示
マクロファージや樹状細胞などが、細菌・ウイルスなどの外来性または、内因性のできものを細胞内へ取り込んで分解し、その一部を抗原としてリンパ球に提示して認識させるシステムのこと。

※Th1細胞とTh2細胞
リンパ球を基にする特異性免疫力により、異種抗原を体外に排出する機能を有しているT細胞の種類。最近の研究では、ナイーブT細胞が、機能的にTh1細胞とTh2細胞に分化することが知られている。Th1細胞による免疫応答は、細胞性免疫を誘導し、マクロファージやリンパ球などの単核細胞中心の食菌処理が起こる。一方、Th2細胞による免疫応答は、液性免疫を誘導し、抗体による殺菌処理が起こる。Th1型サイトカインはTh2型を抑制し、逆にTh2型サイトカインはTh1を抑制し、この2つは免疫全体のバランスを保つために互いに関係し合っている

乳酸菌の大きさと免疫応答Th1とTh2のベストなバランスとは
乳酸菌には大きいものと小さいもの、皆さんご存じのように桿菌と球菌があります。桿菌といえどもさらにそれらが凝集して固まりになることもあります。
そして特に、長寿にふさわしい免疫応答とは、Th1とTh2のどちらなのでしょうか。
Th2の機能亢進が関与すると、病気が発症しやすくなることが分かってきています。例えば、がん、免疫不全、喘息、皮膚炎、アレルギー性疾患、腎炎、感染症、特に老人期に多い肺炎の原因菌、クリプトコッカスなどの細菌に寄生する菌に対しては、細胞の中に入れない抗体では殺菌処理できません。そのため、細胞性免疫のように増殖して食べてくれるものでないと、殺せないのです。 そう考えると、長寿にふさわしい免疫というのは、Th2よりも、若干Th1に傾いていることが、好ましいということが分かります。


乳酸菌の望ましい大きさとは
最近の研究データを総括しますと、長寿免疫に有益なTh1誘導には、植物性・動物性といった起源の違いよりも、乳酸菌体の粒子径を制御することの方が重要ではないか、ということを提案したいと思います。
もう一つ、乳酸菌にTh1・Th2の制御をしっかりするためには、粒子径を制御するナノ型技術を実施することで、Th1誘導性が向上するということをご提案したいと思います。

※バイオジェニクス連絡協議会 「第1回バイオジェニクスセミナー講演録」より転載