(独)国立健康・栄養研究所 「健康食品」の安全性・有効性情報

世界保健機関

乳酸菌は生菌の必要があるか

「乳酸菌は生菌である必要があるか」、これは結論から申し上げますと「ない」と言い切れます。 1966年、ヤクルトの創業者の代田稔氏らは胃で死なない乳酸菌を飲めば、腸内で増えると主張した論文を日本細菌学雑誌に発表しました。当時、腸内のバクテリアのうち嫌気性細菌の測定法は確立されていませんでしたので、大腸菌が悪玉菌の中では一番多く、乳酸菌が善玉菌の代表であると考えられていました。
この論文では、乳酸菌を飲むと、乳酸桿菌がどんどん増えていき、逆に大腸菌はどんどん減少し、乳酸菌を飲むのをやめると、また、元のレベルに戻るという結果が発表されました。このデータを未だに多くの人々に信じられています。

例えば、全国はっ酵乳乳酸菌飲料協会の現在のパンフレットにも、乳酸菌を飲むと整腸効果が起こるとされる理由が、このように書かれています。「ところで、乳酸菌の生菌を販売するどの企業も、「わが社の乳酸菌は胃の中で死にません」。あるいは、「胆汁酸にまで耐えて死にません」ということを声高に主張しており、乳酸菌は胃さえ無事通過すれば後は増えるという先入観にとらわれています。おして、乳酸菌は生きたまま腸内に到達すると、腸内は中性なので栄養分が豊富になり、温度も適温なために乳酸菌は増殖し、そして増殖すれば多量の有機酸を出し、その有機酸によって有害菌の増殖や腸内の腐敗が抑えられ、腸内菌叢が正常化します。そして、産生された有機酸が腸管運動を活発化して、便秘が治るという説明がされております。

大変分かりやすい説明なので、これを聞いた人はみんな納得してしまいます。ところが、この論理はすべて推測で固められています。なぜ誤りかというと、生きた乳酸菌を飲んで、それが腸内で増えたという論文が実はまだ一つもないからです。この理論を裏付ける肝心要の証拠がないのですから、その後の論旨が成り立つはずがありません。

外来の乳酸菌は腸では増えない
これは一番理解しやすいと思いますが、外来の乳酸菌が腸内で増えるとしたら、ある日乳酸菌を飲めば次の日からもう乳酸菌を飲む必要はありません。さらにその次の日には、もっと飲む必要はなくなるはずです。それなのに「毎日お飲みください」という矛盾の中で、生菌の製品は売られてます。

小腸にもたくさんの乳酸菌を殺す物質が
それではなぜ、乳酸菌を飲んでも増えないのか、直接腸に到達させても増えないのか。
一般的に、乳酸菌は胃さえ通過すれば生きられるのだと考えられていていますが、それは違います。胃ばかりではなく腸にも外来菌を殺す物質はたくさんあるのです。

死菌だけで腸内環境は改善する、そのメカニズムは
それでは、なぜ死菌で腸内環境の改善作用が起こるのかについて説明します。まずは、腸管を流れてきた外来菌はパイエル板を通して、体内に引き込まれます。マクロファージはそれを捕食しすぐに生きている菌などを攻撃し、殺したりします。そのほか、外から入ってきた菌を食べることによって、IL-12(インターキーロン-12)やインターフェロン-αなどのサイトカインという物質を分泌します。
この物質を出すことによって免疫担当細胞に向けて、異物が入ってきたという信号を発します。それが制がん作用や感染防御作用につながるのです。つまり、マクロファージが外から入ってきた菌を食べることによって免疫のスイッチが入れられることになります。こうした作用によって、乳酸菌が体の健康に役立っていると考えられます。

※サイトカイン
血球系細胞から分泌されるさまざまな高分子活性タンパク質の総称。リンパ球が抗原などの刺激を受けたときに放出され、免疫系や生体防御系に関与している。

まとめますと、生きた乳酸菌を生きたまま腸に入れても、決して、増殖しません。ある企業は、カプセルにビフィズス菌を入れて、腸に直接届かせたからと良いと宣伝をしていますが、たとえ直接腸に届いたとしても増殖はしません。生きて腸に届く乳酸菌を飲んでも腸内で死んだ状態で通過するだけですから、生きている必要はまったくありません。生かすために莫大なコストをかける必要はないのです。
生菌の整腸メカニズムについて研究はまったく存在しておりません。一般的に言われている生菌の整腸効果のメカニズムは、あくまで「こうだったらいい」という希望に過ぎないのです。また、生菌製品の中に入っている死菌が整腸効果に寄与している可能性というのは、実験結果から大いにあると考えられます。そして、乳酸菌の整腸効果というのは、菌の生死に関係なく菌体が免疫機能を活性化させた結果起こると考えております。

※バイオジェニクス連絡協議会 「第1回バイオジェニクスセミナー講演録」より転載